
たま楽市レポート
専修大学経済学部生活環境経済学科3年
西丸政陽
はじめまして、専修大学経済学部生活環境経済学科3年の西丸政陽です。
2024年度、地域通貨「たま」のイベントである「たま楽市」に参加させていただきました。今回は、たま楽市の様子や地域通貨「たま」を使用した体験、そして地域通貨「たま」の今後の展望などについて書かせていただきます。

地域通貨「たま」とたま楽市
そもそも、地域通貨「たま」とは、どのようなものであるかについて説明します。
地域通貨「たま」とは、私たちが日常で使っているお金としての役割だけでなく、コミュニケーションとしての役割も担っているお金です。「たま」を使うことで、手助けをしたり、感謝の気持ちを伝えることができます。
地域通貨「たま」を入手する方法は、いくつかあります。一般的な方法では、個人会員に入会する方法です。会員登録の際に、入会金として現金500円を支払うことで、1500たまが受け取れます。
その他の方法として、小音階のたま楽市といったイベントのお手伝いのお礼として受け取る方法の他、地域の環境団体や専修大学グリーンバードに参加していただいた方へのお礼として受け取る方法、そして地域通貨「たま」運営委員会に現金を寄付して、同額の「たま」をお礼として受け取る方法があります。
また、『たま』は、「円」への換金ができません。換金ができないからこそ、地域内で使うことで、コミュニティ間の繋がりの強化もできます。
たま楽市は、この地域通貨『たま』を使った地域のお祭りです。主催は、地域通貨「たま」運営委員会が実施しています。実施する目的は、地域通貨「たま」を楽しく使うことで交流すること、そして、より多くの人に知ってもらうためです。
2024年度のたま楽市
2024年11月17日(日)、川崎市多摩区桝形にある根岸跨線橋下公園で開催されました。イベント参加者は、出店している方を含めて、 50〜60人でした。また、当日に10名の方が新規入会しました。参加者の構成は、年配の方から小学生まで、幅広い年代の方々が来場していました。
たま楽市の出店
・会場の向かいにある「健康の森の保全団体」の若い人たちによるお正月のしめ縄作り、竹をノコギリで切る体験
→裏山で採取した木の実やススキなどをしめ縄に飾りました。
・手作りビリヤード
・バルーンアート
→小さい子どもに、アンパンマンのバルーンアートを作ってくれました。
・ベーゴマ、シャボン玉
・飲食
→コーヒー、オレンジジュース、マフィン(バナナ味)、クッキー、おにぎり、豚汁、フランクフルト、ワッフル、駄菓子、梅酒など
・リサイクル品(書籍など)、エコバッグ、食器、プロテインカフェ(体内年齢の測定やプロテインの試飲)、生花、地ビールなど
・アコーディオン演奏(ジブリの曲など)
→もちろん、投げ銭は「たま」。
・多摩区のおすすめスポットを書いて地図に貼る
→おすすめスポットを教えてくれたら、「たま」をプレゼント
飲食物の出店では、ソーセージや手作りマフィン、クッキー、バーボン漬けの梅干しなど、どれも美味しそうなものが販売されていました。
プロテインカフェでは、体組成計を使って体内年齢を測定し、その測定値に対して、食事や運動に関するアドバイスをしていただきました。また、プロテインの試飲やプロテインバーのプレゼントなど、改めて健康について考える機会を提供していただきました。
パフォーマンスでは、専修大学人間科学部の学生の方がアコーディオンの演奏を披露し、会場内の雰囲気が一気に変わりました。観ている人達は、演奏に合わせて手拍子を加え、曲のリクエストや「たま」による投げ銭が行われるなど、会場全体が一体感に包まれました。
参加していた中で、特に印象的だったのが、小学生の積極的な参加でした。ある小学生は、ラムネや飴といった駄菓子の出店を出しており、大きな声でお客さんを集め、おすすめの駄菓子を教え、自分の手で駄菓子と「たま」を交換していました。
また、「健康の森の保全団体」が出店しているしめ縄作りを体験したところ、小学生二人にしめ縄の飾りや飾りの長さなど、様々なアドバイスをしていただきました。しめ縄の飾りは、裏山で採取した赤い木の実やススキなどがありました。
さらに、イベント終了後に、出店のテーブルや椅子の運搬やのぼり旗の回収など、大人と協力して後片付けに取り組む様子も、とても印象に残っています。
このように、大人だけでなく、こどもたちも自主的に参加して、異なる世代で交流を深め、地域住民同士が繋がるイベントとなっていました。

地域通貨「たま」の展望
たま楽市で地域通貨「たま」を利用してみて、日常的に使っている現金とは異なる性質を備えていると感じました。特に、コミュニケーションツールとして便利であると実感しました。
たま楽市に参加する際、私は何もわからず、最初は棒立ちのまま周りの様子を伺っていましたが、徐々に「たま」を主軸に会話が始まり、住んでいる場所や大学生活の話へと発展していきました。このように、「たま」を会話の糸口にして、話を徐々に広げていくことができました。
地域通貨「たま」は、たま楽市だけでなく、日常的に利用することができるということも知りました。「たま」を利用できる店舗一覧の「TAMAP」を見ると、たま楽市が開催された向ヶ丘遊園駅周辺だけでなく、生田緑地周辺の施設や読売ランド駅周辺の店舗で利用できるといった多摩区の広い範囲にわたって使うことができます。
しかし、私自身の感覚では、地域通貨「たま」は、身近でそれほど広まっていないという印象も抱きました。実際に、会場の参加者の方々に「たま」を日常的に使っているかを聞いてみました。すると、日常的に使用している人は、ほとんどいませんでした。また、利用している場合でも、あくまでも「金券的な利用」となってしまっている場合が大半でした。
さらに、参加者の方が「たま」をよく利用する場所を伺うと、向ヶ丘遊園駅と登戸駅の間の踏切付近にある喫茶店「ルグラン」に集中していました。
なぜ、それほど広まっていないのか。さらに参加者の方に伺ってみると、先ほど挙げたような「通貨というよりも金券的な使用となっている。」という意見や「実際に利用すると、お店に対して割引のような感じとなってしまい、申し訳ない気持ちになる。」という利用に対する申し訳なさや抵抗感なども挙げられました。また、「自宅に余っていた『たま』を使うために参加した。」という目的で参加している方もいました。
喫茶店「ルグラン」
上記のような意見を聞く中で、実際に利用するとどのような感覚なのか、利用に対して抵抗感はあるのかといったことが気になりました。そこで、たま楽市の後日、上述した喫茶店「ルグラン」にて、「たま」を利用してみました。
「ルグラン」では、飲食代金の50%までを「たま」で支払うことができます。また、SNSに料理の写真を投稿してくれた人に対しては、お礼として「たま」を提供しています。
こちらのお店で、私はランチの代金1100円のうち、100円を100「たま」で支払いました。利用してみた感想として、初めて地域通貨で飲食店の支払いをしたため、本当に利用することができたという新鮮な感覚がありました。その一方で、ランチの代金1100円のうち、550円までを「たま」で支払えるため、お店に愛着を持つお客さんや常連のお客さんにとっては、利用に抵抗感があるという気持ちもわかりました。
また、喫茶店「ルグラン」の店主の方に、「たま」に関するお話を聞かせていただきました。お話を聞く中で、「たま」に関する2つの課題点が挙がりました。
1つ目は、「たま」を利用できる店舗が限定されている点です。「たま」を利用できる店舗が限定されている点や支払いに対して利用できる割合が少ない点が課題点なのではないかとお聞きしました。実際に「ルグラン」では、お客さんが「たま」を割引として利用する一方で、利用店舗が限られていることから、いただいた「たま」を使えず、お店に1000枚以上が溜まった状態となっています。
2つ目は、「たま」が広く知られていない点です。「たま」の存在が知られていないことから、利用者が増加せずに、「たま」の地域内循環が滞っていると考えられます。特に、高校生や大学生などの学生層に対して周知されていないことが課題点であることがわかりました。「たま」の利用を促進するためにも、多摩区の内外の人たちや学生層に宣伝していく必要があると伺いました。
こうしたお話を聞く中で、利用店舗の拡大や「たま」の存在を幅広い世代に知ってもらうことで、「たま」の利用に抵抗感や申し訳なさを感じる人たちの利用を促進することができるのではないかと感じました。
「たま」への信頼
こうした「たま」の利用方法や意見などを伺ってみると、知名度としてはある程度知られてはいるものの、「たま」の利用はそれほど広く普及していないことがわかります。
こうした「たま」が広がらない理由を考えてみると、多くの人たちが地域通貨を、いつも使っている現金や金券の代用品として認識している点と、現金に比べて地域通貨への「信頼」が増していない点にあるのではないかと思います。
確かに、地域通貨「たま」は、現金と同様に、商品やサービスの対価として支払うことができます。しかし、現金と異なる性質として、「たま」は、多摩区内で限定的に利用することができます。こうした性質から、地域の外にお金が流出してしまうのを防ぎ、加えて、地元の野菜を消費する地産地消を促進します。また、経済的な取引だけでなく、ゴミ拾いのボランティアやサービスへのお礼や感謝の気持ちとして渡せるため、人と人とのつながりやコミュニティの再構築を目指すこともできます。
また、金券の場合は、一度の利用で終わってしまいます。しかし、地域通貨の場合は、持ち主が無くしたり捨てたりしない限り、人から人へと渡り、地域の中で循環していきます。
こうした性質は、利点も生みますが、現金と地域通貨に対する「信頼」に差を生じさせていると思います。
現金の場合は、いつでも、日本のどこでも使うことができるという前提があるため、多くの人たちが「信頼」して、広く利用されます。一方、地域通貨の場合は、利用範囲が限定的であり、現金ほどメジャーではないため、それほど「信頼」されないようにみえます。
私は地域通貨の「信頼」を上げ、広く普及させる鍵は、知名度もありますが、地域通貨を利用する意義を知ることが重要だと思います。ただ支払い手段として使うのではなく、自分の住む地域を盛り上げたり、誰かと繋がりたいという考えを持って利用することで、地域通貨への「信頼」が高まっていき、現金とも金券とも、ましてやおままごとで使う子供銀行券とも違う、地域通貨として本来の役割を発揮できると信じています。
私は地域通貨を循環させる原動力は、人々の地域通貨に対する「信頼」にあると考えます。ただ、「信頼」は勝手に成り立つものではなく、利用者がつくり上げていくものであるため、これからも主体的な利用や活動が求められてきます。
また、実際に利用している人たちが、「たま」がどれくらい浸透しているのか、利用者は今何人いるのかといった「たま」の現状を実感できていない点も、利用を滞らせる一因だと考えられます。
だからこそ、「たま」の利用状況を多くの人たちが知る意味でも、定期的なイベントであるたま楽市は、利用者が一堂に会することができるイベントであるとともに、「たま」をより知ってもらい、「たま」を利用することの意味を再認識する大切な機会です。

地域通貨「たま」に関する提案
こうしたたま楽市での参加や問題点から、地域通貨たまについてのいくつかの提案をしたいと思います。
1つ目は、地域通貨たまのデジタル化です。従来の紙幣型の地域通貨だけでなく、スマホで利用できるデジタル地域通貨に挑戦することで、新しい変化を生むことができるのではないかと考えます。
地域通貨「たま」のデジタル化を行うメリットは、主に3つ考えられます。
まず、新しい利用者の増加に繋がる点です。特に、支払い手段を効率的に済ませたり、最低限の手荷物にしたいと考える若者世代の利用が増えるのではないかと予想します。こうした若者世代が利用することで、地域内でより利用が増えるとともに、SNSを通じて、「たま」を多くの人たちに拡散してくれると思います。
次に、「たま」の利用状況を詳細に把握することができる点です。実際に、コミュニティ通貨の「まちのコイン」では、サイト上に各自治体の利用者数と通貨の流通量が提示されています。このように、利用状況を示すことで、自分たちの町の中でどのくらい使われているのかを知ることができるため、「たま」をより身近な存在にすることができると思います。
最後に、情報が拡散しやすい点です。「たま」を知らない人に対して、利用状況などを通じて、知ってもらえます。また、上述の「まちのコイン」のサイト上では、利用者がちょっとした頼み事や依頼したいことなどが掲載されています。掲載された頼み事を達成すると、お礼として各自治体の「まちのコイン」が提供されます。このように、多摩区に住む人が頼み事をしたい時や人と繋がりたい時に、webサイトで依頼を掲載し、また、デジタル地域通貨で支払いを簡便にすることで、地域内での繋がりが強化になると考えます。
このように、「たま」のデジタル化を推進することで、支払いを効率的に処理するだけでなく、新たな利用者の確保や人とのつながりを生む利点を兼ね備えていると考えられます。
2つ目は、地域通貨たまのマスコットキャラクターの募集です。独自のマスコットキャラクターを作ることで、「たま」を知らなかった人たちが利用するきっかけになるだけでなく、幅広い年代から愛着を持ってもらえるのではないかと考えます。また、募集の対象として、小学生から高校生の学生層に募集をかけることで、若年層にとってより身近なものになるのではないかと思います。自分たちが作ったキャラクターが地域で活躍しているという体験は、地元への愛着や地域内の繋がりの輪を生む入り口になり得ると思います。
3つ目は、意見箱の設置です。今回のたま楽市での聞き取りで、利用場所が集中している点や地域内で流通していない点などの意見を聞くことができました。しかし、今回の聞き取りで拾いきれなかった利用者の意見もあるかもしれません。また、多摩区に住む人たちが地域通貨たまを利用する上で実現してほしい要望もあり得ると思います。そこで、地域通貨たまを利用できる店舗に意見箱を設置してもらうことで、利用上の問題点や新たな要望について知ることができると思います。
結び
今回のたま楽市の参加を通じて、お年寄りの方や子どもたちといった異なる世代が交流する様子を見て、あらゆる世代の人たちに「たま」を利用してもらいたいと感じました。
近年、各地で少子高齢化や核家族化が進むとともに、異なる世代との交流が希薄化しています。こうした世代間の交流が希薄になるということは、今の私たちの生活や日常を未来に語り継ぐことが困難になってしまうのではないでしょうか。かつてのように、祖父母が何かの拍子に昔話を話すという状況も久しくなっています。
逆に、高齢者の方の単身世帯も増加しています。地域とのつながりが弱くなると、災害時だけでなく、日常生活においても、助けを求める相手がいない状況となってしまいます。
こうした問題に対し、地域通貨「たま」は、たま楽市での交流から、世代間の橋渡しとなる役割を十分に担っています。
また、個人的な意見として、私は子どもたちに「たま」を積極的に利用してもらいたいと思いました。子どもの時から「たま」に慣れ親しむことで、日常的に現金と「たま」の併用をしてくれるのではないかと思います。さらに、子どもたちは、過去や現在の日常を未来へ伝えるメッセンジャーでもあり、地域の下支えとなる存在になってくれることから、子どもたちに「たま」をより利用してもらいたいと感じました。
加えて、個人的な経験から、たま楽市のような地元のイベントは、疎遠となった友人との再会の場でもあるため、これから先も続いてほしいと思っています。
私が中学生の頃、多くの友人が他の中学校へと進学したり、中学校の部活や勉強が多忙で頻繁に会うことができませんでした。そうした状況の中で、私が友人たちと唯一会える場所が地元の夏祭りでした。久しぶりに会った友人と、屋台の食べ物を片手に、お互いの近況を話し込んでいたことを憶えています。
高校に進学すると、やがて夏祭りが開催しても足が遠のくようになりましたが、私が中学生の頃に、友人と遊び、疎遠となった友人に会う大切なイベントであったことは事実です。こうした私の経験から、たま楽市が、同世代の友人と遊んだり、異なる世代と交流するイベントであるだけでなく、進学や新たな日常生活によって会うことができない友人・知人との再会の場としても重要であると思います。
地域通貨「たま」は、幅広い世代が関わりを持ち、人とのつながりから地域のつながりへと広がることで、地域の問題解決の一助となることで、さらなる人との輪を生むことができると考えます。

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