私たちはお金なしでは一日たりとも生きていくことはできません。それは現代の経済社会で電気や水のように私たちの生活に欠かせない存在です。いまお金はどうなっているのでしょうか。

2002年、ヨーロッパ連合(EU)で域内統合通貨ユーロが誕生し、当初はその流通圏が拡大していったので、やがて地球上どこでも使える単一の世界通貨が生まれるだろうと多くの人が予想しました。ところが、2010年に弱い環であったPIGSからソブリン危機が勃発し、ギリシアやキプロスの金融危機が深刻になると、今度はユーロの崩壊が懸念されました。さらに、イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ政権誕生によって、国内産業保護や移民抑制といった内向きの政策への転換が打ち出されると、経済のグローバル化からナショナル化、ローカル化への転換が鮮明になりました。

 2010年代になると、ビットコインのような暗号通貨が数多く登場し、貨幣のイノベーションが世界的に盛んになりました。1980年代から世界で広がった地域通貨に新たな仮想通貨が加わったのです。各国の中央銀行が発行する法定通貨とは異なる非法定通貨が普及することにより、貨幣の多様性が増大しました。しかし、地域通貨には、流通圏が限定的で使える対象が限定的、運営が長続きしづらいといった課題が残されていました。また、仮想通貨には、価値変動が激しい投機的な金融商品と化してしまい、ものやサービスの取引に使える貨幣になっていないという問題が生じています。

最近、そうした課題を克服すべく、仮想通貨の優れたデジタル技術(ブロックチェーン、QRコード決済等)と地域通貨の複合的な価値理念(地域におけるエコノミー(経済)とコミュニティ(社会・文化)の活性化)を融合する「デジタル-コミュニティ通貨」が国内外で多様な形態で出現してきたのです。DC通貨とは、貨幣価値の安定を図るとともに、流通圏をローカルないしコミュニティに限定して、会社の活動や人々の暮らしに役立つ通貨を生み出そうという動きです。

日本では、ビッグスリーや地方銀行、電鉄会社や地方自治体が円にペッグして(1コイン=1円)、一定の流通圏域を想定した仮想地域通貨を数多く実験・実施しつつあります。今後想定されるキャッシュレス経済では、複数通貨がナショナルやローカルのような地理的に異なるレベルに多層的な流通圏を形成しながら共存することになるでしょう。ナショナル・レベルでは大手金融機関によるJコインやMUFGコイン、リージョナル・レベルでは道州制規模の広域デジタル地域通貨や私鉄沿線を流通圏における近鉄ハルカスコイン、ローカル・レベルでは高山市や木更津市という自治体行政区を流通圏とするさるぼぼコインやアクアコイン、商店街を流通圏とするシモキタコインまで、実に様々なDC通貨が想定・実施されています。

1976年、オーストリア出身の経済学者ハイエクは、変動相場制の下でも貨幣の発行管理を国(中央銀行)が独占している限り、「悪貨が良貨を駆逐する」グレシャム法則が働いてインフレと国家の財政赤字を助長するので、現在の法定通貨は「悪貨」であり、望ましくないと主張しました。彼は、貨幣の国家独占を排して、通貨単位や各種の質が異なる民間貨幣がお互いに競合するようになれば、人々が望ましいと考える貨幣を選択的に使うようになり、その結果「良貨が悪貨を駆逐する」と考えたのです。その見解は荒唐無稽な絵空事と見なされましたが、現状はハイエクのいう競合通貨の状況に近づいています。

ハイエクは、人々が貨幣を信頼して安心して使えるようになるには、その貨幣価値の安定性が不可欠だと考えました。貨幣価値が下がってインフレが激しくなると、貨幣がすぐに値下がりするのではないかと取引相手が考えて受けとってくれません。逆に、デフレで貨幣価値が上がると予想すると、貨幣を持っている方が得になるので使おうとしません。貨幣価値が安定しないと物の売買に使われなくなって、消費が伸びないのです。むしろ、私たちの生活を豊かにするはずのお金が溜め込まれ、より大きな売買差益を得るためだけの資本になってしまいます。

このような貨幣が多様化する時代では、貨幣はもはや既成物としてトップダウンに与えられるのではなく、下から新たに創造し人々が選択していくものです。よって、貨幣の創造と選択において、どんな貨幣が「いいお金」なのかという問いが重要になってきます。それはただ便利、効率的、安定的というにとどまりません。一体、「良貨(goodmoney)」とは何なのか?これがもっとも根本的な問題です。その答えはだれかが与えてくれるものではなく、私たちが自ら発見しなければならないものです。

私たち自身がどんな暮らしを送りたいのか、どんな経済をよいと考え、どんな社会に暮らしたいのか?これからは、国内総生産(GDP)、富、あるいは人口の増大のような量だけでなく、私たちの生活・人生の質、そして、社会・経済の質を問わなければなりません。

私たちは一体何をサステナブル(持続可能)にしたいのでしょうか?貨幣の蓄積、経済の成長、人口の成長、技術の進歩でしょうか?それとも、豊かな自然環境、多様な生命からなる生態系、世代を通じて伝承されてきた言葉や文化、人々の集まりやつながりとして続いてきたコミュニティでしょうか?

グッドマネーとは、「生活・人生の質」から見たグッドライフに依存し、量ではなく質を決めるものとして、人々が心に抱く価値をうまく反映するメディアなのです。

グッドマネーラボは、産学官民コンソーシアム型ラボラトリーとして、新たに生まれてきたデジタル-コミュニティ通貨をグッドマネーとして多角的に模索し、発見し、実現することを目指します。

 

グッドマネーラボ代表 西部 忠